年末恒例の2024年に読んだ中で良かった本をまとめておこうという記事。
今年も、年内に読んだ本の中から特に良かった本を7冊紹介します。
記号創発システム論
記号創発システム論ー来るべきAI共生社会の「意味」理解にむけて(ワードマップ)谷口忠大(著,編集) .https://www.amazon.co.jp/dp/4788518546
「記号創発システム論」という学術的概念に関係する分野とキーワードを、それぞれの分野の研究者が紹介・解説する本。
今年はAIの利用がさらに拡大した年であったと思うが、事実に基づかない情報を生成するハルシネーション問題も頻繁に見かけるようになった。 この本ではそもそも人と人とのコミュニケーションにおいてどのように意味伝達を行ってきたのだろうかという探求を各分野横断で行っている。
このような議論が行われるようになった背景には生成AIの流行理というのもあるのだろうが、言語習得や内部モデル生成のシミュレーションや横断的研究といった要素もあるのだろう。
そもそも言葉とはなにか。AIがさらに発展してきたときに人間らしさはどこに残るのか。生成AIとの共生が始まった時代に、そもそも言葉ってなんだっけ?を問い直す際に必要になるキーワードと関連書類を拾い集められる本。ここで紹介されている本やキーワードに関する情報を来年以降調べていきたい。
「複雑系」入門
「複雑系」入門 カオス、フラクタルから生命の謎まで (ブルーバックス)金重明(著) .https://www.amazon.co.jp/dp/4065316243
カオス、フラクタル、ライフゲームといった数学の概念がなぜ注目されているのかについての本。
複雑系というキーワードにいまだ心を惹かれるものがある。そんな中見かけた一般向けの複雑系に関する新しめの本。
ブルーバックスの本で複雑な数式もなく読める。カオスやフラクタル、ライフゲームというものがあることは知っていたが、この本を読んでようやくそれらがなぜ注目するに値するのかの一端を知れた気がした。
2020年の良かった本として『WORLD BEYOND PHYSICS』を取り上げているが、その類書としておもしろく読ませてもらった。複雑系と呼ばれる領域で見られる「カオスの縁」のおもしろさと、そのカオスの縁にいるであろう生命についての議論を反芻していきたい。
データとデザイン
データ と デザイン 人とデータのつなぎかた櫻井稔(著) .https://www.amazon.co.jp/dp/B0CSPCJG33
データをより人に寄りそうものとするにはどうデザインしていくべきかについて。
ビッグデータに対して、ビジネスに関するものや扱うソフトの操作方法に関するコンテンツばかりが並ぶ中、ビッグデータと人をつなぐ媒介としてのデザインを考えていこうという内容が新鮮に感じた。
特に印象に残ったのは、データの可視化における主な役割として「探索」と「提示」をそれぞれ個別に求められてきたが、多くの人がデータを触れるようになり両方を融合した可視化が求められるようになったという論。データ活用の文脈では次のアクションを求められることも多く、MATLABで分析するだけとかインフォグラフィックスのような提示だけとかだと片手落ち感は確かにあるなとなった。
また、可視化にはデータの同質性と単位を意識するといった業務から得たであろう知見や、これからは専門家だけでなく生活者に許容されるデータサービスでなければならない、なども印象に残っている。
ラトヴィアの図書館
ラトヴィアの図書館吉田右子(著) .https://www.amazon.co.jp/dp/4798073830
バルト三国の1つであるラトビアの図書館事情について。ソ連とナチス・ドイツによって繰り返し占領に遭い、ラトビア語と文化の弱体化を克服するため図書館をどのように立て直していったか。
文化の保護を国策として行った国の本気度や危機感が現地の図書館の写真から感じ取れ、カルチャーショックを覚えた本。
ラトビア語を守るためラトビア語を唯一の国家語と規定しつつも、図書館には実際の話者数に配慮しロシア語・ウクライナ語・ポーランド語などの資料が用意されている。 作家が図書館を訪問するイベントが文化プログラムとして日常的に行われている。 パンデミックによって電子書籍やデジタルサービス支援などのIT化が大きく前進したなどなど。
占領という歴史が図書館のあり方にここまで大きな影響を与えるのかと興味深く読んだ。「言語文化を守る砦」として図書館の存在感がここまで強くあるのはラトビアならではなのだろうと思った。
結婚の社会学
結婚の社会学 (ちくま新書 1789)阪井裕一郎(著) .https://www.amazon.co.jp/dp/448007614X
結婚をめぐる常識がどう変遷してきたか、国によってどう違うか。
この本には結婚という制度に対する常識が思った以上に文化的・時代的背景に影響されていることを認識させられた。
仲人を介した結婚が正しい結婚という社会規範の広まった明治時代、人口政策と優生政策をベースに設置された公営結婚相談所、性別役割分業家族と職縁結婚の増加といった史実が前半に語られる。
後半は、欧米社会で進みつつある出産・子育てが結婚から分離する現象、日本の事実婚が夫婦別姓のために行われているという特殊性、同性婚をめぐる対立などについてが語られている。
時代と国による結婚に対する認識の違いを多々知ることができ、結婚という制度に対して読む前と少し違った視線を向けられるようになった。
AI・機械翻訳と英語学習
AI・機械翻訳と英語学習 教育実践から見えてきた未来山中司(編集) .https://www.amazon.co.jp/dp/4255013640
大学での英語教育に機械翻訳ツールを大々的に取り入れたらどういう影響があったかの報告。
「機械翻訳禁止!」とするのではなく積極的にAIを取り入れた場合にどういう影響があったのかが描かれていて、未来の教育について考えるヒントになった一冊。
機械翻訳や生成AIを英語の授業に積極的に取り入れた立命館大学の講師陣による共著で、どのような取り入れ方を試しているのか、翻訳ツールを導入したことによる学生への影響はどうであったかが書かれている。
ChatGPTに文章を書かせるのではなく、ChatGPTを利用して文章を書く。機械翻訳を利用することに罪悪感を持つ学生が生まれてしまっている。新たな表現を獲得したり表現したいニュアンスを機械翻訳を通して学べる。などなど、注意すべき点もあるが利点も多々あることを実際の授業の様子を添えて紹介している。
新しく生まれた技術を積極的に取り入れる難しさはあるのだろうが、記述の内容や文章構成のようなより本質的な部分に焦点を当てられそうだなと感じた。
暮らしと物価の地政学
家計と世界情勢の関係がまるわかり! 暮らしと物価の地政学小山堅(監修) .https://www.amazon.co.jp/dp/4816376240
国際貿易と各重要物資をめぐる世界情勢をまとめた本。
今年は世界情勢がさらに複雑怪奇になっているので、生活に関係する部分だけでも把握しておきたいひとにオススメ。
小学校で配られた社会の資料集を書籍にしたような雰囲気の本。ロシアのウクライナ侵攻の影響だけでなく、2024年6月のパナマ運河の通航制限緩和まで書かれていて結構最近の情勢まで反映されている。
前半は経済連携協定や主要国のパワーバランスについて書かれている。 後半では石油のようなエネルギー資源、小麦などの食物資源、半導体のような産業資源の主要な品目について、生産量・輸出量・輸入量のランキングが書かれている。
それこそ学生時代に社会の授業でいろいろと丸暗記した記憶があるが、改めて俯瞰してみると世界情勢も結構変わってたんだなという印象を持った。
加えて、リチウムを産出・精製している国だとか、ブラジルの大豆と肉の生産についてだとか、繊維生産の主流が変化し綿は全体の26%にまで割合を減らしているだとか、把握できてない事柄も多く勉強になった。
後記
来年も良い本に出合えるといいですね。