書いた本が出版される話。または、執筆の体験の良さに対する感想。
E2Eテストについての本を書いた。Playwrightを通してE2Eテストをしようという本になった。
エンジニア選書というシリーズで発刊される。発売日は2024年6月19日。E2Eテスト初心者が第一歩を踏み出すにあたって必要なノウハウを書き込んだつもり。
内容としては、チュートリアルやツールセットの説明など、Playwrightを一通りさわってみてもらう内容の前半。後半には、実環境でE2Eテストを行うために、ソフトウェアのテストをどう設計するか、E2Eテストがどういう役割を果たすのか。また、テストを書いてこなかったアプリに対してどこからテストを書いていくか、といったノウハウを書いている。
社内有志メンバーの共著で、私はPlaywrightの応用例やE2Eテストの実戦投入など、業務で得たノウハウを活かせる章に注力した。
このメンバー内では中堅という立ち位置にいたので、新人側の人たちには導入やチュートリアル的な項目を、ベテラン勢にはそもそも論や内部構造などを任せた。私の過去の経験を活かせる書きたい部分を重点的に書かせてもらった。
書籍執筆という体験
書籍の出版は今回が初めてだが、雑誌への寄稿や同人誌の出版は過去に何度か行っている。
それらと比べて書籍の執筆には体験の良さが感じられたので、記憶が薄れてしまう前に書いておく。
同人誌の執筆との比較
コミケや技術書典、某オンラインの技術同人誌イベントに過去参加し頒布してきた。
書いた同人誌は共著だったり、単独で書いたり、薄めだったりそこそこの分量だったり。
過去に同人誌というまとまった分量の文を書く体験をしていたので、出版社さんから話が来たときに、やりましょうと言えた気がする。
入れ込みたいコンテンツをリストアップして、読みやすい流れになるように本全体の構成を考えて、それぞれの章で文章を記述していって……。という流れは同人誌でも同じように行っていた。そういう経験があったのもあって執筆はスムーズに行えた。
対して、書籍と同人誌の違いをひしひしと感じた部分もあった。校正のサポートと、需要のあるものを記述しているという感覚がそれだった。
校正のサポートというのは出版社での出版と同人誌の頒布との違いでわかりやすいものの1つかなと思う。今回は編集者による校正に加えて、共著者同士での読み合わせ、外部の有識者からのレビューが入っている。
もちろん同人誌の頒布時にも文章の確認は何度もするが、書籍には個人が行えないレベルの質で校正が何度も入るのだなということを実感した。
誤字脱字・用語の統一といったものだけでなく、より読みやすくなるよう文章の入れ替え、初出用語に対する解説の有無、意図外の読まれ方をしうる文章の検知、スタンスのブレに対する指摘、読みにくい文章に対する添削などなど。
文章をより読みやすくするための添削を自分の文章にしていただき、自分の文章の癖や読みやすくする手法方法を多少なりとも認識できた。この校正パートが今回とても勉強になった。
そして、もう1つの大きな違いである需要のあるものを記述しているという感覚について。 以前、『Software Design』という雑誌でE2Eテストに関する連載をし、そちらの評判が良かったので、ということで今回の出版につながっている。
出版社が本として出版しようと思えるだけの需要、手ごたえが出版社に伝わるほどの読者の声。これらのあることが文章を書くうえで非常にモチベーションになった。
同人誌の場合はそういった需要が果たしてあるのだろうかと疑問を持ち続けながら書くことになる。イベントに申し込んでしまったから、書くとTwitterに宣言してしまったから、みたいな心持ちで書くことになりがち。ちゃんと需要のあるものを書いているという感覚は執筆体験の良さにとても大きく寄与していると思う。
雑誌への寄稿との比較
以前、『Software Design』に4回ほど寄稿した。直近2回は今回と同じ編集さんとやり取りをしたが、雑誌と書籍の執筆でも執筆体験の違いを感じた。特に分量と期間の違いは大きい。
雑誌のときは紙面に限りがあり、指定ページ以内に収める必要があるので特に重要なトピックに絞って記述していた。対して書籍はおおよそこれくらいのページ数で、という指定はあったものの紙面に余裕があったため、入れ込みたいコンテンツ、紹介したいコンテンツを十分に盛り込むことができた。
もちろん、あまりに些事過ぎるものや文脈に合わなさすぎるものを省くこともあったが、大体のことは書き加えることができたと思える。
執筆期間の長さも書き加えるコンテンツに影響を与えているように感じる。今回は執筆の話が出てから1年+αの期間書いていたが、このくらいの時間があると書いている途中で「この要素も入れたほうが役立つのでは?」という内容が思い浮かび、構成に組みなおして入れる時間も十分に確保できる。
月刊発行の雑誌の場合は、記事の構成変更をできるタイミングも組み入れる紙面の余裕も少ないので、そういう意味で余裕のある執筆体験だったなという感想を持った。
レビュー・批評
雑誌の1記事に対して取り立ててレビューをする人は少ないと思う。実際にあまり見かけなかった。(とはいえ片手ほどの数ではあるが見かけはした。ありがたい。)
同人誌に対する感想はTwitterに投稿してくれることも多々ある。良かったよ、という感想とともに宣伝をしてくれることが多い、とてもありがたい。
さて、書籍に言及した感想は記事や同人誌と比べ物にならないくらい多くなるだろうし、対するレビューにはおそらくしっかりとした批評がつくだろう。同人誌よりも著者の顔が相対的に遠く、星付きでレビューをする場所も多い。ここに関しては正直なところこわくはあるが、これもまた糧になるだろうとも思う。
締め
書籍の出版における執筆体験の良さについてつらつらと書いた。非常に良い経験をさせてもらった。また可能であれば書きたい。